詩の注釈 「凝集する粒」
粒子さん、すごい詩作ったね!山尾三省を超えたか?はい、秋の空は人をその気にさせるようです。
このマニアックな詩にはまる人はもの凄く少ないだろうけど、宮沢賢治や関豊太郎(賢治の土壌学の師)は、きっと分かってくれるよ!
このブログを見てくれる奇特(無論いい意味です)な方々に、この詩をより深く味わって貰うため、注釈を試みまする。
「凝集」細かい粒が集まって固まること。
「超音波」これを使って作り出した細かい気泡を高速でガンガンぶつけることで、固まった粒つぶをバラバラにする。土壌団粒研究のスタンダードな手法。粒子はこれを死ぬほど繰り返している。
「短距離秩序構造」short-range-order。黒ぼく(Andisol)と呼ばれる土壌タイプに特徴的な(他の土壌タイプでは少量しか存在しない)微細粘土鉱物。具体的には、アロフェン・イモゴライトやフェリハイドライトという名前の土壌鉱物のこと。
「金属腐植複合体」英名:organo-metal complex。アルミニウムや鉄のイオンが有機物の官能基(カルボキシル基)と仲良く、がっちりと手を繋ぐことで出来る物質のこと。この握手が、化学ではキレート化・錯体形成と呼ばれる。
「ナノメートル」上記の鉱物のサイズは、なんと数~数十ナノメートルなのです。
「ドメイン」微細な鉱物粒子たちは、土壌などの環境中で、単体では存在せず、何百(何千?)もが仲良く固まって存在している。この仲良しグループさんのことを「ドメイン(domain)」あるいは「タクトイド(tactoid)」と呼ぶ。
【この詩の総合的解釈】この1年半寡黙に実験し続けた粒子の心の叫び。
【academic implication】今まで誰もやらなかったほど徹底的に黒ボク土の粒に超音波を浴びせることで、恐らく世界で初めてミクロ以下のスケールでの団粒階層構造が明らかになりつつあります。
粒子 Good job! そして論文頑張ろう!
粒の詩
こんばんは、粒子です。
今日はお天気も良く、街路樹の紅葉がとてもきれいでした。
こんな美しい秋の日は、人を詩人に変えてしまうのですね。
火山灰土壌の分散に立ち向かう、全ての人にささげる詩をつくりました。
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「凝集する粒」
あぁ 黒ボク土よ
火山灰からできた土の粒よ
なぜ おまえはそんなに凝集するのか
超音波の振動にも耐えて
短距離秩序構造が
金属腐植複合体が
おまえを駆り立てるのか
分解しろ!
ナノメートルのドメインまで
再構築しろ!
サブミクロから生態系まで
おまえは底しれぬ時間軸を包み込み
果てしない階層構造に命を育む
私はおまえの一粒々を見たいのだ
だから分散しろ
ひとまず完全に分散しろ!
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詩的な秋の一日は過ぎてゆくのであります。
終わり。
土の色 その2
こんばんは。粒子です。
土の色の続き。
赤、黄、黒。
土の色は、その土の成り立ちと、性質を知る上で、重要な手がかりになります。
色が、土の分類基準にもなっているんですよ。
色なんて曖昧なもの、どうやって、情報を共有するかというと、こんな道具があります。
「標準土色帳」どんっ。
目で見比べて判断なんて、なんてアナログな!と思われるかもしれませんが、現場で五感に勝る物無し。
これは、マンセルのカラーチャートから、土に関係する色だけを集めたもので、色を世界共通の記号と数字で表すことができます。
そのため、「うちの表層、10YR1.7/1ですよ。」とか、「このまえ2.5YR4/8のB層掘りました。」と言うだけで、「おお〜!」と世界中の土壌学者が興奮できるわけです。
どれだけ色があるかというと
こんな色の土、あるの!?って色までありますね。
それがあるんですよ〜、こんな色の土が。
という話は、またの機会に。
さて、赤、黄、黒色の粒たちに話は戻ります。
土の色は、鉄の化合物や、有機物の、種類と量で決まることがほとんどです。
小笠原の赤色は、ヘマタイト、という鉄酸化物の色。
亜熱帯や熱帯など、気温が高い気候条件では、ヘマタイトやゲータイトという鉄酸化物が土の中に出来るので、赤〜黄色の土がみられます。
つくば(畑)の黄色は、フェリハイドライト、という鉄酸化物の色。
明瞭な結晶構造を持たない、ユニークな鉱物で、黄褐色になります。
私たちは、この結晶構造を持たない鉱物に、興味津々です。
そして、つくば(水田)の灰色は、鉄が無くなってしまった色です。
なんで鉄が無くなったか気になります?
じゃぁ、それもまた、別の機会に(長くなりますからね)。
最後に、有機物の色はどうなのよ?ということで、つくば山のA層を持ってきました。
黒い丸じゃないですよ。土が盛ってあります。
土壌中の有機物の量が多くなるほど、黒っぽくなります。
ところが、なんで有機物の量が多くなるの?とか、有機物の色が黒くなるの?と、聞かれると、私たちは答えに詰まってしまいます。
土の中に有機物があること、すごくあたりまえのことですが、その基本的なメカニズムは、よくわかっていないのです。
場所によって(深さによっても)、土の色は様々です。
その色の違いは、土が存在する環境、生物、有機物、そして無機物の相互作用の違いを表しているといえます。
土の中で、サイズも、タイムスケールも違った、めくるめく相互作用が起こっている。
想像すると鼻血を噴きそうですね。
さ、興奮したところで終了。
土の色 その1
こんにちは。粒子(つぶこ)です。
前回は、せむこによる、ミクロな世界の写真をご紹介しました。
今日は可視光の世界にもどって、色つきの粒たちです。
みなさんの住んでいる場所の土は、何色ですか?
粒子が住んでいるつくば市は、こげ茶色、ですね。
試験管に粒たちを入れただけですが、なんともカラフル!
これは、土壌の下のほうにある、無機物が主体の層(B層)から採った試料です。
(土壌層位は、10月3日の記事に粒蔵さんが解説してますのでみてね。)
B層は、土が出来てきた歴史や、もともとの岩石の種類によって、多様な色をしています。
ちょっと粒を取り出して並べてみましょうかね。
素敵な三色の粒、左から、小笠原(父島)、つくば市(畑)、つくば市(水田)から採った試料です。
さて、どうして色が違うんでしょうか??
続きは、また明日。
次世代の研究者を育てるためには?
今日からブログ更新のギアチェンジ。週一回を目指します!
トップバッター粒蔵です。
いきなり、土とも粒とも無関係ですが、遅ればせながらiPS細胞の山中さんネタで。大発見というだけでなく、山中さんのこれまでの挫折を含めた研究人生、周りへの感謝の念、ぶれない明確な目標など、素晴らしいの一言!
紹介したいのは、山中さんがアメリカを引き合いに出し「若手研究者にもっとチャンスを与え、シニア研究者にもフェアな(厳しい)評価を行う研究体制が必要」と訴えている下記の記事です。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/121018/scn12101823230002-n1.htm
自分もこの意見に全く同感です。そして、これまでも同様の指摘をした人は多いと思います。
では、なぜ変わらないのか?
僕は、評価できる人が圧倒的に足りないからだと思います。研究申請書の量と質、評価者のレベル、評価にかける時間、科学に精通する官僚や政治家の割合には雲泥の差があると思うのです。これは研究者を雇用する際の評価(テニュア審査)でも同じ。
アメリカ(欧米全般?誰か知ってますか?)では、申請書の研究内容に精通する評価者を本気で探し、海外の科学者に頼むこともあります。申請書が不採択の場合、評価機関の担当者とその理由について直接ディスカッションすることが大切とのことです。研究者雇用の場合、対象となる専門分野の研究者は同じ大学には普通いないので、他大学の専門家をテニュア審査委員に入れることもあります。どちらも日本では聞いたことがありません。
日本では、創造的な科学者や研究プロジェクトを育てたいという気持ちに勝る理由(例:組織内バランス・和の精神?)がある気がします。
すべて英語化し、評価者にも海外研究者を増やし、弱肉強食の研究社会にすればすべて解決するという単純な話ではないですが、健全な競争原理をもっと入れるべきだと強く思います。
一方で、この十年で日本の研究評価体制も、徐々にですが、よい方向に変化してきたと思います。よって、科学者を目指す若い人達は高い志を持ってがんばれば、どの大学にいてもチャンスは得られやすくなってきたと思います。
フェアなルールさえあれば、好奇心旺盛で努力を惜しまない人は日本には多いので、もっと素晴らしい若手研究者が出てくるだろうし、日本の科学はもの凄く発展すると思います。サッカー選手にできて科学者にできない理由はない!
PS.日米ではそもそも研究予算の額が違うから?という理由もあるかと思ったけれど、それはなさそう。GDPに対する研究費は、防衛費を入れるとアメリカが日本の1.5倍だけれど、防衛費を除くと日本の方が多かった。
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80305a07j.pdf
やはり、研究評価システムというソフト面の問題が一番大きいというのが、現時点での僕の結論。つまり、フェアな評価システムをどうやって作るのかについて、もっと若手・中堅研究者も考えて、提言をするべきかもと思った次第です。これとペアで考えるべき大学教育システムについては別の機会に。
この話題に関係する本(他にも色々あるとは思うが)。
● 検証・なぜ日本の科学者は報われないのか(コールマン)
● 理系白書(毎日新聞科学環境部)
● 切磋琢磨するアメリカの研究者達(管裕明)
懐かしのフィールド(土を掘って、断面を見てみれば)
こんばんわ。団 粒蔵(つぶぞう)です。団 粒子のボス的存在になります。
ミクロな写真がアップされたので、マクロな写真で対抗(?)します。
先日、新潟のブナ林に行ってきました。そこは、粒蔵が初めてフィールドサイエンス(野外での自然科学)の手伝いをした場所だったので感慨深かった!なんせ、かれこれ20年前のこと。そこでフィールドの面白さ、自然の不思議さに感激し、土のすごさの目覚め、今に至ります。
で、何を調べに行ったかというと、もちろん土壌です。
この土壌はなかなかキレイな褐色森林土でした。典型的・教科書的と言っても良さそうな森林土壌でした。
このように掘ってみると、色々なことが分ります。先ず、掘っていて石ころ(礫、レキ)が殆どなかったことから、土砂崩れや洪水によって運ばれてきた土壌ではなさそうだ、と推理できます。次に、色の縦方向の変化を見てみます。
一番上の層は落ち葉の層です。リター層あるいは有機質層、O(organic)層と呼ばれます。
その直ぐしたの巻き尺の先端から鉱物層が始まります。
尺の2の辺りまで(0~20cm)が有機物に富んだ鉱物層(A層)。
そこから下がB層です(詳しくはBw1, Bw2層と分割)。
黒っぽいA層から薄茶色のB層へ、色が「徐々に」変化していることは何を意味しているのでしょうか?これは、O層の落ち葉が、「徐々に」分解されながら、重力や雨水や土壌生物の影響を受けて下層に移動しいることを意味します。例えば、もし過去数百年の間に大きな攪乱があったならば、このような土壌にはなりません。
上の写真は、掘りやすそうな場所を選んで掘りました。が、実際のブナの木の足下には、こんなラピュタ的世界が広がっているのです。
樹木は、土に保持されている養分(窒素やリンなどの栄養塩)や水を吸収するため、そして幹を延ばし光を得るにも倒れてしまっては元も子もないので、こんなに根を張っています。
用を終えた葉や根っこは、枯死して土に還ります。それをバクテリア、糸状菌、ミミズ等の分解者達がせっせと食べることで養分が無機かされ、根がそれを吸収します。また、彼らの代謝物の一部は、土壌の粒つぶと結合し、団粒という構造をつくります。この構造が、分解者や根の生育にちょうどよい住み場環境(水分・養分・敵からの防御)を提供しているのです。
あー、やっと森の物質循環と土の粒の話がつながった!めでたし、めでたし。
今日のせむこ
こんにちは。
ラボメンバーそのいち(?)、団 粒子(だん つぶこ)です。
私たちのラボには、電子顕微鏡(SEM)、通称「せむこ」がおります。
せむこは、私たちの目に見えないミクロな世界を見せてくれる、強力な相棒です。
土の粒子は、いったいミクロの世界では、どうなってるんでしょうか?
百聞は一見にしかず!というわけで、私たちは、せむこで、土の粒たちを観察しています。
本日は、そんなせむこからの一枚。
題して「つぶなべ」
直径20μmのちいさな粒です。
何に何が詰まってるんでしょうね??
こんなつぶは、めったになくて、ほとんどは、こんなふうに見えますよ↓
ちなみに、これらはつくばの黒ボク土と呼ばれる土壌から分離した粒たちです。