土のつぶろぐ

土の粒々から世界を考える!(ある土壌科学者チームの挑戦)

腐植物質とは?なぜ土壌に有機物は溜ってゆくのか?

先週、日本腐植物質学会のシンポジウムで「物理分画法から見える腐植物質(土壌有機物)の特徴」というタイトルで、現在のプロジェクトの成果を発表してきました。

 

土壌腐植研究の大御所の先生方も来られており、質問もたくさん受け、活発なディスカッションをすることができました。Y先生もご健在で実験が楽しい!と言われてており、感激。科学者はこうでなきゃ!と。

 

さて、この学会の名前である腐植物質とは何のことでしょうか?定義は幾つかありますが、「落ち葉や倒木などの植物リターが、それをエネルギー源とする土壌微生物によって分解されてゆく過程で出来てくる暗色で不定形(はっきりした構造をもたない)の有機物の総称」のことです。

 

土壌中には、由来や形がはっきりとした有機物(枯死した根っこ、木片、糸状菌の胞子など)も存在するため、それらすべてを含めた場合、「土壌有機物」となります。ただし、植物リターと腐植物質の境界線はとても微妙であるし、土壌有機物=腐植物質と考える人もいるし、けっこう曖昧さがあります。土壌は、多種多様な物質の混合物なので、仕方ありません。

 

土壌有機物中の炭素は、生物多様性の宝庫である土壌微生物達のエサ(エネルギー源)です。それは、人間が炭水化物などの有機炭素を食べて、それを二酸化炭素(CO2)に酸化することでエネルギーを得るのと全く同じ事です。土壌微生物たちはいつでも空腹のようで、土壌に分解し易い有機炭素(グルコース等)を加えると、微生物は急激に活性化します。

 

それでは、なぜ微生物による分解を免れて土壌中に有機物が貯まってゆくのでしょうか?

 

これまで考えられてきた主な理由は、有機物(腐植物質)の分子が巨大でその構造が複雑だからというものです。しかし近年では、土壌中の有機物を取り巻く環境(特に、土壌の大半を占める鉱物粒子の影響)によって分解が抑えられているという考え方が注目さてています(例えば. Schmidt et al. 2011のNature論文:http://www.nature.com/nature/journal/v478/n7367/full/nature10386.html )。

 

鉱物粒子の影響とは、具体的には、土壌中の鉱物粒子やそこから溶け出た金属イオンと有機物が結合することによって分解しにくくなっている、あるいは、有機物が土壌鉱物粒子に取り囲まれている(団粒構造)ために微生物がアクセスするのが難しいという理由で土壌有機物が溜まってゆくという考え方です。

 

物理分画法という手法と固体分析・同位体分析を組み合わせた僕らの研究結果は、この鉱物との相互作用による分解抑制という説を支持している、という内容の講演発表をしてきました。

 

学会では、水域を対象とした研究トピックも多く、上流の森林土壌から溶けだしてきた腐植物質と鉄は、別々にではなく、仲良く手をつないだ形で移動しており、その鉄が沿岸の昆布の生育に重要だという話もありました。土壌と川と海の繋がりについては、リクエストがあれば、次回にもう少し考えてみたいと思います。