土のつぶろぐ

土の粒々から世界を考える!(ある土壌科学者チームの挑戦)

土の中の世界:構造の巻(土は色々な物質が組み合わさって出来ている)

さて、いい加減、このブログの表の主題に戻ります。今日は、「土はぐちゃぐちゃ混沌として物体ではなくて、幾つかの物質が規則性をもって組み合わさって出来た構造物(例えば、人間の作る建築物のようなもの)なのです」という話です。

 

土は、岩石の粉砕物やセメントとは違い、もっと複雑な構造を持っています。それは、植物の根や土壌中の多様な生き物(ミミズ、トビムシ、アメーバやバクテリアやキノコを作る糸状菌)の生育に適した構造です。

 

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では、上の図を見ながら説明してみようと思います。(こういう絵がどこにも見当たらなかったので作りました。授業などで使いたいという方は、御連絡下さい)

 

普段、地面に見えるごく表層の土しか見る機会がないと思いますが、森などで土をざくざく掘ってみると、足元の地表面から下に向かって、色、粒つぶ感(形、硬さ等)、匂いなどが変わっていくことが観察できます(上図、左)。「懐かしのフィールド」に本物の写真あり。土壌学者(特に、ペドロジスト)は、この変化が明らかに起こる境界に線を引き、それぞれをO層、A層、B層などとして区別してから、詳細を調べます。

 

一番大きな変化は、表層は落ち葉、根っこ、生きものが多い有機物に富んだ黒っぽい層になっているのに対し、深い層では、粘土や岩石などの鉱物が主な構成成分になってゆくく点です。それぞれの層がどうやって出来上がっていくのかは、今度にして先を急ぎます。

 

この1メートル程度の深さで土壌に構造があること(性質の違う層が組み合わさって出来ていること)は分かりました。では、1メートルの百~千分の一(1~10ミリメートル)の世界ではどうなっているのでしょうか?

 

土のA層をそっと取り出し眼鏡や光学顕微鏡で見てみると(上図、右上)、土の塊(団粒)や植物の細根や毛根、糸状菌や菌根菌の菌糸が見え、団粒と団粒の間に隙間が多いことが分かります。

 

森や畑などの一般的な土では、なんと体積の約半分は隙間(孔隙)からなっています。この隙間のうちの狭い隙間や土の粒つぶの表面に水が存在し、(液相)、大きな隙間は空気が占めています(気相)。だから、土壌はふかふかしており、根や生き物たちが干からびることも窒息することなく、生きていける訳です。

 

土の体積の残り半分は、固い物が占める固相で、鉱物でできている粒つぶ達が主役です。鉱物粒子(読み:こうぶつりゅうし【注】「つぶこ」ではありません)は、一般に大きさで分類され、直径2mm以下は粘土(clay)、2~20mmはシルト(silt)、20mm~2mmは砂(sand)、それ以上は礫(gravel)と呼ばれます。【2013/5/11. 詳しくは、「土性」の説明を参照】

 

上図の右下はマイクロメートル以下の世界を単純化した絵です。生々しい姿は、「今日のせむこ」参照。SEM、TEMなどの電子顕微鏡で見える世界です。因みに、土壌中のバクテリア君は約1マイクロメートル(1μm)。太めの髪の毛の100分の1の大きさ。図に示しているのは、層状に重なってできている粘土鉱物粒子(層状ケイ酸塩)3つがあるところに、有機物(この場合、落ち葉などの植物由来のものではなく、微生物の死骸や代謝物と考えられている)もくっついているという絵です。

 

粘土粒子のどの辺に、どれ位の量の有機物が、どんなメカニズムでへばり付いているのか?その有機物は果たしてバクテリア君にとって利用可能なのか?といった疑問は、じつは地球の炭素循環や温暖化問題に関わる重要な問題で、私達のプロジェクトを含め、世界で研究が進められているのです。この話になると熱くなりすぎるので、話を戻します。

 

粘土、シルト、砂などの鉱物粒子たちと有機物(大きな落ち葉、根から、小さな生き物の死骸まで)がくっつき合うことで、団粒構造が形成され、いろいろな大きさの隙間が生まれます。この構造こそが、土の生物達に格好の住み処を提供しているのです。

 

ちょっと難しい数字の話になりますが、土の中の有機物は、A層と呼ばれる植物の根が一番多い層においても、せいぜい炭素としては土壌重量の3~10%で、最大でも15%程度です。残りの90%前後は鉱物です。しかし、この少量の有機物が接着剤となって、鉱物粒子や小さな団粒同士がくっつき合って、沢山の隙間のある「ふかふか土壌」が出来ています。

 

土の体積のうち隙間が占める割合(これを孔隙率、porosityと呼びます)は、土壌中の生き物や植物の根の生育に大きな影響を与えています。森の土を何度も踏みつけ続けると、団粒構造が壊れ、土のなかの隙間が減ってしまい、生き物たちは酸素不足になったり、水不足になったりしてしまいます。

 

このように土には、メートル単位の大きなスケールでも、粘土粒子や微生物たちの大きさであるミクロスケールでも、構造が発達しています。この土壌構造と有機物の間には密接な関係があり、陸上の生物や生態系にとって必須の役割を果たしている、というお話でした。

 

因みに上の図は、森林生態学の教科書の「森林の土壌環境」の章のために作った図を改変したものです。大学生あたりを想定し、森と土の関係の面白さについて、説明を試みたものです。もし読む機会があれば、感想(ここが意味不明、そこは腑に落ちたとか)を聞かせて下さいね。

森林生態学 (シリーズ 現代の生態学 8)

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